2006.06.10

 全国野鳥密猟対策連絡会のサイトに掲載していただいた記事をこちらでも掲載します。

写真につきましては、一番下のリンクから御覧下さい。かなり刺激的なので御覧になる方はそのつもりでクリックをして下さい。

2月に追加の取材に行ったときの様子も近いうちに公開をします。

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去年の12月に茨城県土浦市で行われた第13回野鳥密猟問題シンポジウムin 茨城に出席した際、霞ヶ浦周辺の蓮田で多くの野鳥たちが防鳥ネットに絡まり犠牲になっていることを知らされた。物が言えない鳥たちの叫び声と日本野鳥の会茨城支部の取り組み方を知って頂くため、後日同じ場所へ取材に行き写真とビデオを撮影してきた。下にリンクをしてあるので是非記事をお読みになってから写真を見て欲しい。

 現在の茨城県の産業について野鳥の会茨城支部から以下のような情報を頂いた。「茨城県は3年前の霞ヶ浦の鯉ヘルペス禍で鯉の養殖業者は大打撃を受け、また去年からの鳥インフルエンザの影響で養鶏場では何百万という鶏の処分を余儀なくされている。このように茨城県の産業は非常に苦しい状況である。」

 そして今、霞ヶ浦の自然再生事業の成果もあり、水鳥の増加に伴い蓮田の野鳥による食害問題が深刻化している。茨城県のレンコンは22,700tと全国の出荷量の46%を占めており全国1位で県にとって重要な農業生産物である。茨城県の鳥被害額は全国で2番目であり、霞ヶ浦周辺でのレンコン被害総額は2004年12月7日の産経新聞社朝刊では約5億円、また農水省の資料によると平成15年度茨城県鳥被害額は5億9千万円とある。いずれにしても相当な被害額であることは間違いない。

 ちょうど今の時期レンコン出荷の最盛期で、農家の方は凍り付く蓮田の中に腰までつかり収穫作業をしている。農家の方にとって鳥にレンコンを食べられることは生活に直結する大きな問題である。農家の方と野鳥との関係は両方ともが被害者であり、同時に加害者でもあるという難しい問題であり、各地でこのような問題が起きているようだ。

 参考までに今回と同じような防鳥ネット問題を抱えている石川県金沢市河北潟の蓮田の経緯を見てみよう。

1996年    防鳥網に繋った野鳥の保護活動が始まる

1997年    河北潟レンコン田の犠牲野鳥を護る為、模型オオワシを設置

1998年    防鳥網の改善を求める要望を県に提出

2000年  防鳥網が撤去され、ステンレスの番線製新型ネットに改良される

この河北潟での事例で注目したいことは、今から5年前に金沢市で野鳥が絡みにくい防鳥ネットへの移行という結果を出している事だ。

では霞ヶ浦に防鳥ネットが張られた経緯を調べてみると・・・地元農家の方から茨城県園芸流通課へ野鳥被害の相談があり、農林水産省と園芸流通課が話し合いのテーブルに着いた。残念なことに、そこでは防鳥ネットに鳥が絡みたくさんの犠牲が出ることは想定されず4年前の金沢市河北潟の事例は参考にされなかった。平成16年1月頃から霞ヶ浦では数億円という国庫補助金を使い、たこ糸状の防鳥ネットを張りだした。その結果野鳥の大量死という問題を生み、更に絡まった野鳥の撤去、地元の愛鳥家とのトラブル等、農家の方にも負担をかけてしまった。億単位の事業を行う時、背景にある問題点を洗い出し、入念な下調べをするのが普通ではないのだろうか。結果論になってしまうが、十分な調査をすれば石川県金沢市河北潟の事例を発見できた筈であり、国と県に責任の一部があると言われてもしかたあるまい。ちなみに、鳥獣保護管理の中枢である環境省野生生物課には霞ヶ浦の野鳥被害の状況は伝わっていない。

参考資料として農林水産省発表の「平成17年鳥獣による農林水産業被害対策に関する検討会」の中で書かれている今後の被害対策の取り組み強化の方向を紹介したい。

◆     「鳥獣の保護管理のための規制及び被害防止対策に関する関係府省の連携を強化」

◆     「研修の充実と併せ、国において鳥獣害対策のアドバイザーとなる専門家を登録・紹介」

◆     「最新の研究成果等を基に、県域をまたがる広域地域を含め生態特性等に基づく総合的な被害防止体系を構築」    

 では具体的にどのような状況なのだろう。野鳥の会茨城支部がまとめた調査ではコミミズク、フクロウも含め春期秋期合わせて600羽近くが犠牲になっている。内訳を見るとレンコン耕作者が食害の主犯だと言っている深層採餌性のマガモやカルガモが占める割合は8%に過ぎず、表層採餌性のコガモ、ヒドリガモは逆に半数を占める。野鳥の会茨城支部から「更にこれから行政と生産者代表と茨城支部が共同して(1)野鳥被害状況の把握(野鳥の会の数字だけでなく生産者と共同で調査する)、(2)蓮根被害実額の把握(共同調査による信憑性のある数字)、(3)それに基づく野鳥被害と蓮根の被害対策をどうするかを同じテーブルで話合い、事態の改善に向け具体的対策の協議に入る」というお話を頂いている。

 そして現在、野鳥の会茨城支部は全国野鳥密猟対策連絡会を通じて株式会社アンテック(日本野鳥の会法人会員)から雪国で使われている鳥&レンコン双方に効果的な防鳥ネット(金沢市でテスト済み)の提供もあり、霞ヶ浦専用「新型防鳥ネット」を開発し実際の蓮田でのテストまでこぎ着けている。

 野鳥の会茨城支部は野鳥の被害が出始めた時から、蓮田の状況を訴えている。昨年行われたジャパンバードフェスティバル会場内の茨城支部のブースにおいて「防鳥ネットから野鳥を守ろう」と題して惨状を訴えているのをご覧になった方もいると思う。(参考写真1)また同フェスティバルで「新型防鳥ネット」開発の業績が認められ「オオバン賞」を獲得した。このように野鳥の会茨城支部では今回の防鳥ネット被害の解決に向け「野鳥にとって優しい防鳥ネットの開発と、野鳥と環境に優しいネットで作られた美味しい霞ヶ浦レンコンというブランドで農協を通じて全国に販売しよう」という販売策を提案している。

 環境省生物多様性センターの全国雁・鴨渡来数調査では霞ヶ浦に渡来するマガモやコガモ、ヒドリガモの個体数が急増しているとの報告が出されている。これからの課題は(1)増加傾向にある水鳥の生活圈と餌の確保、(2)農家の方への補償策の制定、(3)鳥への被害が少ない防鳥ネットへの助成金の交付等ではないだろうか。

 今回は物が言えない鳥たちに代わり、このような悲惨な状況を知ってもらおうと思った。

 私たちに何が出来ることはないだろうか?今、色々な団体が様々なアイデアを出しあっているところである。

 

 最後に野鳥の会茨城支部からのメッセージをお伝えしたい。

「ただ感情だけで行動を起こすと野鳥の会が今まで行ってきた地元の関係者との有効な話合いを発展させる阻害にもなりかねません。野鳥の会の会員の方には支部報などを通じて、理解と協力をお願いしております。是非これをお読みの皆様方に於かれましても茨城支部の取り組みにご賛同いただきましてご理解、ご協力いただきますようお願い申し上げます。」

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現地の取材と記事を書くにあたり 「日本野鳥の会茨城支部」並びに「全国野鳥密猟対策連絡会」の多大なるご協力とアドバイスを頂きました。ありがとうございました。

参考写真1(写真提供:日本野鳥の会茨城支部)

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