2006.05.19

 5月10日から16日まで「愛鳥週間」でした。それにちなんでいくつかお話を。

管理人はそんなに沢山ではありませんが、いくつか鳥の書籍を読んでいます。その中でも特に心に残った文章があります。

管理人が尊敬する日本野鳥の会の創設者である中西悟堂氏が「アニマ」1977年9月号によせた機関誌「野鳥」創刊時の基本的性格についての文章です。
30年前の記事なので読んだことがない人が多いと思いますので是非紹介したいと思います。
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以下抜粋

1・・・日本古来の「飼い鳥」の悪習を根こそぎ追放する使命を雑誌に持たせたい。
2・・・自然の山野の鳥からそのまま精神的慰藉を受けるだけの風習を作り上げたい
3・・・山野の鳥をそのまま楽しみかつ尊重することは、その住処である山川草木を尊重することにつながる。すなわち自然尊重の気風の作興ともなる。
4・・・鳥を媒体として、誌上で芸術と科学を協調させたい。いま芸術と科学は他人同士のバラバラな状況だが、これでは片輪の文化しか生まない。どちらも人間の富であるが、知性と感性が現在は汽車を乗せぬ二条の平行線になっているといって良い。この空虚の平行線に機関車を乗せてこそ、正しい文明への意志もはたらき、文明国という終着駅に辿りついて真善美の花も咲こう。文明は即文化ではない。いい文化が内にあってこその文明でなくては、外づらは豪華でも、心は痩せて貧しい砂上の楼閣に過ぎまい。
5・・・こうあってこそ人生は浄化され、人間は豊かになる。それはその芯となるべき高い宗教性を深奥のともしびとしたい。
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じつにバランスが取れた素晴らしいものの見方です。
野鳥の写真を撮影する人や観察、研究をする人は一度読んでおいて欲しいと思います。

次に、かすみ網の話題です。

かすみ網とはヘアーネット状の大変細い糸で作ってある鳥を捕獲するための特殊な網です。文字通り飛んでいる鳥には見えにくい霞のようなものです。

その中西悟堂氏が半生をかけて取り組んできた「かすみ網禁止」。
私たちの日本では、かすみ網の性格を生かした狩猟が200年以上前から行われてきました。どのような性格かといえば、鳥の種類を差別なく一網打尽にしてするというものです。絶滅に瀕している鳥なども差別なく捕獲してしまい野鳥の保護上大変大きな問題があります。こんなものが野放しにされたら野鳥はいなくなってしまいます。
中西悟堂氏は1957年にかすみ網の使用禁止を実現させました。その後1991年に日本野鳥の会の働きかけもあり鳥獣保護法の改正でかすみ網の所持と販売も禁止となりました。

読者の方は「なるほど、かすみ網は持ってもいけないし売ってもいけないのか」と思うでしょう。事実そうなのですが、お役人の参考書である「鳥獣行政業務必携」という鳥獣保護法の分厚い本を読むと、いくつかの条件が付けられているのがわかります。条件とは「通達5-2」において「網を張るための竿を持っていたとか囮の鳥を持っていたとか鳥獣の捕獲の可能性がある場所での所持等の禁止」とか「反復継続して不特定多数のものに対してなす意志の下に行われる有償譲渡」などです。
また法律的にいうと、かすみ網の定義は「はり網のうち棚糸を有するもの」となっています。かすみ網から棚糸を取ればただの網となります。反対にいえばただの網に棚糸をつければかすみ網に変身をするというわけです。
これ以上の説明はサイト上では出来ませんが、勘の良い読者の方は「なんだこれは!」と思ったことでしょう。
野鳥密猟の撲滅のため、次の鳥獣保護法の改正のおりには是非「通達5-2」の条件の再考とかすみ網定義の見直しを検討して欲しいものです。

ところで、標識調査でのかすみ網はどうなんでしょうか。差別なく鳥を捕獲できる性格から調査にはとても都合が良いのです。
この場合、勿論合法的な使用で何ら問題はありません。
ではその安全性は?
もし鳥自体にとって、とても危険ならば密猟に使われるはずがありません。網にかかって商品価値が無くなってはどうしようもありません。網にかかりボロボロになった羽を見たらびっくりするかも知れませんが、鳥の羽は肉眼では見えない鈎状のものでくっついていて、羽づくろいすれば元通りになります。しかしながら、全く安全かと聞かれるなら「NO」といわざるを得ないでしょう。網にかかり怪我をしたりする鳥もいることは事実です。
むしろ、その危険性は網を張った場所での2次災害(他の捕食者による被害)や設置条件(天候、気温)や放置時間(網にかかったままにする時間)の方が大きなファクターを占めていると思います。

最後はアホウドリの話。

山階鳥類研究所が環境省の委託事業として行っているアホウドリの保護増殖事業(通称デコイ作戦)が13日のテレビで放映されました。アホウドリをおびき寄せるために設置されたデコイに恋をしてしまったアホウドリの「デコちゃん」の話でした。こうした比較的大規模な保護活動というのはお金がかかるものです。残念ながらデコイ作戦の2000万円の予算が他の保護活動へ回されることになり、デコイを撤収せざるを得なくなりました。

「デコちゃん」がかわいそうという声が多数よせられているそうです。
番組の中で佐藤研究員が言った「生き物を相手にする保護活動では思いもよらないことが起こるものです」という言葉が心に残りました。

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